蜂が黒いものを狙うというのは間違い?蜂の視力|蜂のコラム

蜂が黒いものを狙うというのは間違い?蜂の視力 蜂が黒いものを狙うというのは間違い?蜂の視力

「黒い服を狙う」は
間違い⁉
ハチの視力と色覚

「黒い服を狙う」は間違い⁉ハチの視力と色覚

ハチが黒い服などの「黒いものに寄ってくる」、という情報は基本的には正解ですが、場合によってはそうではないこともあります。黒色に寄ってくると言われている理由を考えてみると、そもそもハチの視界は私たち人間と同じなのか、疑わしくはありませんか?
このページでは、ハチの視力や目の仕組み、色の見え方など、蜂の視界・視覚について解説していきます。

ハチの目の構造

ハチの目の構造

目の構造は、人間を含む多くの脊椎動物が持つ「カメラ眼」の他に、「複眼」、「単眼」の三つに分類されています。
昆虫類は単眼と複眼のどちらか、あるいはこの両方を持つなど種類によって様々ですが、ハチの場合は2つの複眼と3つの単眼の計5つの目で構成されています。

 

■複眼

複眼は、個眼とよばれるいくつもの小さなレンズの集合体で構成されており、この個眼の一つ一つが物体のそれぞれ違う角度を映し出し、その情報の総合で、見ているもの全体の姿を認識しています。

個眼の数は昆虫により様々ですが、ミツバチの場合は女王バチで3,000~4,000個、働きバチで4,000~5,000個、雄バチでは7,000~9,000個の個眼を持っているとされています。
同じ巣で生まれたハチなのに違いがあるのかと不思議ではありますが、ほとんどを巣で過ごす女王バチと外で狩りを行う働きバチ、交尾のため長距離の旅を行う雄バチですから、それぞれの役割を考えるとその必要性に応じていると言えるかもしれません。

こんなに目があるならよく見えているだろうと思われるかもしれませんが、実は個眼には像を結ぶ網膜がありません。
数個の色を感知する視細胞があるだけですので、それぞれの個眼は色を識別し、それによってぼんやりとしたモザイク像として、物体を認識していると考えられています。

1つの個眼は1画素で見えており、7千個の個眼を持つ雄バチを例に挙げると、全体でも7千画素程しか見えていません。
人間の目はおよそ700万画素で見えていると言われているため、比べてみると人間の1000分の1、視力でいうと0.01程度しか見えておらず、これを複眼の構造のままで人間と同じくらいにものを見るには個眼が700万個必要となり、目の大きさは直径で70㎝にもなってしまう計算になります。

このようにほとんど視力がない複眼ですが、動きを敏感に検知できる点においてはたいへん優れており、例えば、光の点滅は人間の目だと1秒間に30~40回程度までの速さなら認識できますが、ミツバチにおいては1秒間に300回もの明滅までを見分けることが可能です。
つまり素早い連写ができるカメラのような目を持っており、発砲された銃弾が目に見え、人間が動く様子がスローモーションに見えてしまうほどの動体視力があるということです。この時間分解能の良さが視力をカバーし、外敵の動きに対して素早い反応が出来ているのでしょう。

■単眼

ハチの単眼は明暗を感知するだけで、物を見ることはできません。構造が単純な分、わずかな光の変化も感じとり、その情報伝達を複眼の3分の1の速度で行うことができるため、この感度と速度をもって複眼の機能を補っています。

しかし、補うといってもただのおまけの様なものではなく、無くてはならない器官であり重要な役割があります。
例えば、ハチは明け方から活動を開始し、暗くなると巣に戻り休息を取りますが、単眼が使えなくなると明け方の遅い時刻から行動を開始し、夕方まだ明るいうちに戻ってくるなど、通常とは異なった動きをするという実験結果があります。
つまり、ハチの一日の活動の開始と終了は、単眼で感知できる明るさのレベルによって判断されており、単眼が無い状態では上手く感知することができないのです。

また、3つの単眼それぞれで光の差し込む方向を探知し、その情報の総合から太陽の位置を認識しており、これによって、飛行中の自身に対して地面がしっかり下側に位置しているか、身体の傾きや揺れ、進行方向などの飛行中の姿勢の乱れを制御しています。
このような平衡感覚を失ってしまう症状を空間識失調といい、主に航空機のパイロットが濃い霧の中や夜間など、地平線が見えない状況で飛行する場合に陥りやすく、航空事故の原因にもなる非常に危険な状態です。
視力のほとんどない昆虫においては、日中であれ濃い霧の中にいるのと同じように視界の悪い状態であることが考えられるため、この姿勢の乱れを制御する機能がとても重要であることがわかります。

この太陽の位置の把握は、ミツバチ間のコミュニケーションにも重大な役割を担っています。
ミツバチが新たに発見した餌場や営巣場所を巣の仲間に知らせるために行う「八の字ダンス」は、情報を知らせる一匹のハチが、数字の「8」を上下に押しつぶした様な図形を描きながら巣の中を歩き回り、交差する中央の直線状で激しく尻を振るというものです。
一見意味のない行動に見えるこの動きにはしっかりとしたメッセージがあり、尻を振る速さが餌場までの距離を、交差部分の直線の角度が餌場の方向と太陽の方向の角度を表しているのです。

色の見え方

■色が見える仕組み

「見る」ということは、物体に反射して目に入った光が、網膜上で像を結ぶことで感知され、その情報が視神経を経由して脳に伝わることで起こります。
暗闇で何も見えないという現象は、ただ暗いから見えないというわけではなく、物体に反射する光がないから網膜に移すことができないという状態であり、物を見るためには光が必要不可欠なのです。

私たちもよく知るこの光というものは、実は電磁波の一種に分類されています。電磁波は、電波や紫外線など、私達の身の回りに目に見えない形で存在していますが、380~780nm(ナノメートル)という範囲の波長であれば人間の目でも見ることができ、この波長が長いものから順に、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫という色として見えているのです。

例えば、光がりんごにあたると、りんごの表面でほとんどの波長の光は吸収され、赤色を感じる波長の光が多く反射されます。このように、ある一定の波長の光が目に入ることによって、私たちは目の前にあるりんごの色を「赤い」と感じることができるのです。

なお、この380~780nmの人間の目で見える光を「可視光線」と呼び、この範囲より波長が長くなると赤外線域、逆に波長が短くなると紫外線域になり、この領域になると人間の目には見えません。

色の波長と可視光線の図 色の波長と可視光線の図

■ハチの目から見える色

色の正体は光であるとも言えますが、光の波長の違いを脳内で色分けしているだけであり、「色」は私たちの脳内にのみ存在していると言われています。
可視光線は、人間が感じることの出来る範囲というだけで、ハチを含む多くの生物には見える波長の範囲も、その範囲で見える色合いも異なるのです。

ミツバチが見ることができる波長は430nm~610nmです。人間が見えている380~780nmの範囲とくらべてみると30~50nm程のズレがあり、赤色である610~780nmの範囲は見ることができません。
この、「赤色は見えない」という言葉のみがとらえられ、「ミツバチは赤い花には訪れない」という情報も浮上しているようですが、これは大きな間違いであり、赤色をした物体の存在自体が透明になるわけではありません。
赤色は黒やグレーといった無彩色に置き換えて見えており、これは、人間で言うところの色覚異常(色を判別出来ない病)に近いようです。

また、380~610nmまでの範囲は私たちと同じように見えているかというとそうではなく、緑、黄、橙は全て黄色に、青、紫は青色に見えており、あまり細かい色の区別はできていません。

そして一番の特徴は、人間の目には見えない紫外線を色として見ることができるという所です。
紫外線とは、可視光線の領域より短い波長の電磁波で、多くの昆虫にとってこれを見ることが重要になっています。
ミツバチの場合は、蜜標(みつひょう)、又はネクターガイドといって、蜜を出す花の中央部が紫外線を多く吸収しており、これがミツバチにとって蜜を探し出しだす目印になっています。

ミツバチに見える色は、黄、青緑、青、紫外線となりますが、花の色や空の明暗に関係なく蜜を探せるため、他の色に関してはなんの問題も無いと言えるでしょう。

なお、スズメバチはミツバチとは違って白黒のコントラストでしか物を見ることができません。
そのため、赤や青などの濃い色は黒やそれに近い灰色、黄色などの淡い色なら白やそれに近い灰色で見えています。

ハチの目から見える色 ハチの目から見える色

まとめ・スズメバチ対策へ活かす

●まとめ

  • 視力はほとんどない
  • 動体視力に優れており、周りがスローモーションに見える
  • 明暗を探知する機能は、日中の行動時間と飛行姿勢を制御し、ミツバチにおいてはコミュニケーションにも役割を持つ。
  • ミツバチに見える色は、黄、青緑、青、紫外線
  • スズメバチに見える色は白黒のみ
  •  

ハチの目について掘り下げてみましたが、いかがでしたでしょうか?
上記の点から言える、スズメバチの攻撃対象と回避方法についても触れていきましょう。

■黒いものを狙う

黒い色を優先的に攻撃してくる、というのは有名な話かと思いますが、これはスズメバチがものを濃淡で判断していることから、単に視界に動く黒いものがあると目立って見える、というところから来ているようです。
したがって、この噂は事実に基づいていることになりますが、実は夜間になると勝手が違います。

これは、夜の暗闇の中では黒いものが動いていてもあまり目立たず、逆に白いものが動いているとよく目立つためであり、つまり、スズメバチに対して避けるべき色は、日中は黒、夜間は白、というように真逆になるのです。

そもそも夜間はスズメバチも活動しておらず、対峙する機会もあまりありませんが、夜間に駆除を行う場合においては、わざわざ全身真っ白の服装で挑むようなことが無いよう注意してください。

■逃げる時はゆっくりと

スズメバチには、人間の動きがスローモーションのようにゆっくりと見えています。いくら必死に走ったとしてもあまり意味がなく、むしろハチの目にはとらえられやすくなってしまうため大変危険です。また、スズメバチは視力が悪く、モノクロのコントラストでしか見えていないことから、前後の動きには気づきにくくなっているため、逃げる時はゆっくりと後ろに下がるのがよいでしょう。

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